貝原篤信

諸獣の肉は、日本の人、腸胃薄弱なる故に宜しからず。多く食ふべからず。烏賊・章魚など多く食ふべからず。消化しがたし。鶏子・鴨子、丸ながら煮たるは気をふさぐ。ふはふはと俗の称するはよし。肉も菜も大に切たる物、また、丸ながら煮たるは、皆気をふさぎてつかえやすし。 ____ もし久しく安坐し、また、食後に穏坐し、ひるいね、食気いまだ消化せざるに、早くふしねぶれば、滞りて病を生じ、久しきをつめば、元気発生せずして、よはくなる。常に元気をへらすことをおしみて、言語を少なくし、七情をよきほどにし、七情の内にて取わき、いかり、かなしみ、うれひ思ひを少なくすべし。慾をおさえ、心を平にし、気をやわらかにしてあらくせず、しづかにしてさはがしからず、心はつねに和楽なるべし。 ____ 珍美の食に対すとも、八九分にてやむべし。十分に飽き満るは後の禍あり。少しの間、欲をこらゆれば後の禍なし。少のみくひて味のよきをしれば、多くのみくひてあきみちたるにその楽同じく、且後の災なし。万のむくひて味のよきをしれば、多くのみくひて、あきみちたるにその楽同じく、且後の災なし。万に事十分にいたれば、必ずわざはひとなる。飲食尤満意をいむべし。また、初に慎めば必ず後の禍なし。